♪♥ この教材は,高校数学の基本問題のうち,pならばqの真偽のバックアップおよびマイナーチェンジありのカバー版です. ♫♣ 元の教材が通信トラブルで読めないときや,元の教材がなくなってしまったとき(高齢者がいつまでも生きている訳ではない)などに,こちらを使ってください.なお,学習の記録は付いていません.
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■pならばqの真偽 ○ 「p → q」 ( p ならば q ) の真偽
【要点】
p,q の真偽に応じてp→q の真偽を次のように定める(定義).
真偽を各々1,0の値で表わすときは,p→q の真理値を次のように定めることになる.
※ p→qの真偽は,上の表のようにp,qの各々の真偽値の組合せによって決まる. ※ これに対して,「つねにp→qが成り立つ」,「すべての場合についてp→qが成り立つ」という命題も単に「p→q」と表され,その真偽を問うこともできます. 「つねにp→qが成り立つ」という命題は上の表においてBの欄がないとき(起らないとき),すなわち右図のように「(pであってかつqでないもの)」が存在しないとき(空集合になるとき)に「つねに真」になります.
○ 個別の場合についての真偽を問うているのか,表全体で「つねに真となる」かどうかを問うているのかの2つの場面がある.
■1 【p,qの真偽が定まるときのp→qの真偽】 場合分けして答える. ■2 【つねにp→qが成り立つという命題の真偽】 (pであってかつqでないもの)がなければ真 (pであってかつqでないもの)があれば偽 |
○ 左の表が「pならばq」「p→q」「pはqである」などの条件命題(条件文,含意命題,一般的伴立関係)の真偽についての数学的な定義(約束事)になっており,数学的な命題の真偽を判断するときは,これに当てはまるかどうかだけで考えることが重要です. ○ 数学用語としての「pならばq」は,日常用語での「pならばq」とは異なっており,次のように約束と違反の2段階で考えるとよく分かります.
(pであってかつqでないもの)がなければ真 (pであってかつqでないもの)があれば偽 |
【例1】
■1 「各々の場合について(運転手ならば免許がある)」の真偽日本の法律では,運転手は免許を持っていなければならないことになっています. (p:運転手)ならば(q:免許がある) という形の条件命題について, これを
(p:運転手)かつ(q:免許がない)ことが禁止されている
と考え,この法律に対する違反があるときは偽と答え,違反がないときは真と答えることにすると,次の表の左のp,中央のqに対する各々の真偽は右の列のように決まります.
ここで,運転手が真とは,ある人を調べたときにその人が運転手であれば,「運転手であるという」命題が真であるいうこと.運転手でなければ真理値は偽.その人が免許を持っていれば,免許があるは真,なければ偽で表す.
(解説)
■2 「すべての場合について(運転手ならば免許がある)」の真偽 以上のように,運転手であるかどうか,免許があるかどうか,のいろいろな組み合わせがあるので, しかし,次の図のように(運転手であってかつ免許のない人がいない)場合には,上の表でA,C,Dの場合しかない(Bの場合がない)ことになり, (p:運転手)ならば(q:免許がある)が常に成り立つことになります. 逆に,1人でも(運転手であってかつ免許のない人がいる)場合には,上の表でBの場合があることになり,(p:運転手)ならば(q:免許がある)は成り立ちません. |
【例2】
ある高校の校則第○条では,「暴風警報が出ていれば休校とする」と規定されているものとします. (p:暴風警報)ならば(q:休校) という形の条件命題について, これを
(p:暴風警報)かつ(q:授業)が禁止されている
と考え,この校則に対する違反があるときは偽と答え,違反がないときは真と答えることにすると,次の表の左のp,中央のqに対する各々の真偽は右の列のように決まります.
※この例では,授業の有無を判断するのは
■1 各々の場合について,(暴風警報ならば休校)の真偽
校長なので,校長の判断が校則に違反して いるかどうかという問題を扱っています.
(解説)
例えば1年間の学校運営の記録を見たときに,次の図のように(暴風警報が出ていて,かつ授業をした日がない)場合には,上の表でA,C,Dの場合しかない(Bの場合がない)ことになり,この1年間校則第○条は守られたことになります. |
【例3】
■1 各々の場合についての(カラスならば黒い)の真偽
(p:カラス)ならば(q:黒い) という学説があるものとするとき,この学説が真になるか偽になるかを判断すると
ここで,カラスが真とは,ある鳥を調べたときにその鳥がカラスであれば,「カラスであるという」命題が真であるいうこと.その鳥がカラスでなければ真理値は偽.その鳥が黒ければ,黒いは真,そうでなければ偽で表す.
(解説)
■2 「つねに(カラスは黒い)」という命題の真偽 (p:カラス)ならば(q:黒い)という命題が成り立つのかどうかは,カラスとしてどの範囲の鳥を考えるかによって変わります.通常われわれが見るのはハシボソガラス,ハシブトガラスの2種類で,いずれも黒いので上の学説は正しいでしょう. しかし,カラスの一種まで広げると話が変わってきます.佐賀平野には,豊臣秀吉の朝鮮出兵(文禄の役・慶長の役)のときに,家臣が連れて帰ったと言われているカササギという名のカラスの一種がいて,胸のあたりが白くなっています.(私も汽車の窓から見たことがあります.)カラスの範囲をここまで広げてしまうと,上の学説はつねに正しいとは言えません.(Bの場合があります.) |
【注目すべき点】
この問題では,(カラスでない鳥)が(黒い)場合でも(白い)場合でも,命題(カラスならば黒い)が成り立つことになります.今までのどの例でもCもDも真となっています.このことは,次のようにまとめることができます. ○ 仮定pが成り立たないときは,結論qが何であっても(pならばq)の命題は真になる.
※次のような逸話と結びつけて覚えると忘れにくくなります.
論理学者バートランド・ラッセルは,「仮定が間違っていればどんなことでも証明できる」という話をしたときに「それではあなたがローマ法王であることを証明してください」と言われて,直ちに次のように答えたと言われています.
もし,2=1ならば異なる2人の人,ラッセルとローマ法王は同一の人に等しいから,ラッセルはローマ法王であることになる. |
※ 「pならばq」の真偽について,次に述べる4枚カード問題(Wason課題)でテストすると大学生でも正答率は1割~2割になると言われており,認知心理学において文脈依存性,領域固有性の問題として興味ある話題となっています.
【例題1】 4枚カード問題(Wason, 1972)
(解答)ある工場では表に文字,裏に数字を印刷したラベルを, ■1 この問題では,個別に真偽を判断することが求められています. (表が母音ならば裏は偶数)という規則に対して違反となるのは,(表が母音かつ裏が奇数)の場合.
対偶で考えるときは
母音ならば偶数 …(元の規則)
があるとき,これと同時に
奇数ならば子音 …(規則の対偶)
も定められたことになるから,奇数の裏も調べる必要があると考える.⇒この問題では,Eと7の2枚を答えた場合に正解となる. よくある間違い: 「Eと4の2枚」と答える…規則に合うものが選ばれやすい この傾向は,人間心理の「確証のバイアス」と呼ばれ,偶数の裏が母音なら元の規則が守られている可能性が高まると考える傾向があるとされている.実際には,反証の推論(母音かつ奇数の検出)が必要となる.
通常,Wasonの選択課題とよばれている問題は以上の通りであるが,この問題を解く上では「表に文字,裏に数字が印刷されている」という部分を疑うと問題の意味が分からなくなる.すなわち,文字-文字,文字-白紙,数字-数字,白紙-数字の可能性は考える必要がないとする.この部分を疑うと,すべてのカードを裏返さないと確認はできない.
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【例題2】 飲酒問題(Griggs & Cox,1982)
(解答)「アルコールを飲んでいるなら20歳以上でなければならない」という法律がある.次のように年齢と飲み物だけが分かっている4人の人がいるとき,この法律が守られているかどうかを確かめるためには,誰を調べればよいか. 違反となるのは,(アルコールかつ20歳未満)の場合.
論理的な構造は例題1と同じであるが,この問題を間違う人は少ないと言われている.分かりやすい理由として 日常経験で経験する場面が多く(領域固有性),禁止の型がはっきりしてることが考えられる. |
【問題1】「未成年者は喫煙してはならない」という法律が守られているかどうかを確かめるために,年齢と行動のうちの一方だけがわかっている次の4人のうちで,もう一方を調べなければならないのは誰か.なお,ガムを噛むことと喫煙することは,同時にはできないものとします.
(未成年者かつ喫煙している者)だけが法律違反だから
(該当するものにはすべてチェックを付け,該当しないものはチェックをしない)
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【問題2】日本史上には「平家でなければよい待遇を受けられない」と噂された時代があった.この噂が正しいかどうかを確かめるために,出身と待遇のうちの一方だけがわかっている次の4人のうちで,もう一方を調べなければならないのは誰か.
(平家でない者)かつ(待遇がよい者)がいる場合だけが噂に反しているから
(該当するものにはすべてチェックを付け,該当しないものはチェックをしない)
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【問題3】「緑色の目をした猫は魚を食べない」という学説があるとき,この学説が正しいかどうかを確かめるために,目の色と食べ物のうちの一方だけがわかっている次の4匹のうちで,もう一方を調べなければならないのはどれか.
(緑色の目)かつ(魚を食べる)猫がいる場合だけが学説に反しているから
(架空の学説)
(該当するものにはすべてチェックを付け,該当しないものはチェックをしない)
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【問題4】トマトは「水をやらないと甘くなる」という学説があるとき,この学説が正しいかどうかを確かめるために,水やりの有無と甘さのうちの一方だけがわかっている次の4個のトマトのうちで,調査しなければならないのはどれか.
(水をやらない)かつ(甘くない)トマトがある場合だけが学説に反しているから
(該当するものにはすべてチェックを付け,該当しないものはチェックをしない)
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【例題3】
(解答)次の各命題の真偽を答えてください. (1)1+1=1→2+3=1 (2)1+2=3→1+3=4 (3)1>2→4>1 (4)1+2=3→2+3=1 仮定と結論の真偽に応じて,(仮定)→(結論)の真偽についての次の定義に当てはめます.
仮定や結論の部分が自分の信念と一致するかどうかで左右されてはいけません.特に例3で述べたバートランド・ラッセルの逸話において「仮定が偽ならば結論が何であっても命題は真」の話も参考にしてください.
(1)は偽→偽(Dのケース)だから真です. (2)は真→真(Aのケース)だから真です. (3)は偽→真(Cのケース)だから真です. (4)は真→偽(Bのケース)だから偽です. |
【問題5】次の各命題が正しい(真)ときはチェックを付け,正しくない(偽)のときはチェックなしとしてください.
(1)は偽→真だから真です.(2)は偽→偽だから真です. (3)は真→偽だから偽です. (4)は真→真だから真です. |
【問題6】次の各命題が正しい(真)ときはチェックを付け,正しくない(偽)のときはチェックなしとしてください.
(1) たぶん今日は13日の金曜日ではなく,明日も14日の土曜日でないにもかかわらず,この問題は誰でもできます.なぜできるのかを考えてみると,仮定(13日の金曜日)と結論(14日の土曜日)の個別の内容にかかわらず,「次の日」を求める計算に慣れているからだと考えられます.(領域固有性) ただし,多くの人は,次の表のうちでAの欄だけを考えて答えると思います.正確には次の表でB欄になることがないのでつねに真ということになります.
(2) かなり離れた日付になっていて,日常的に出会う機会がないので間違う人があるでしょう. ある年の4月1日が日曜日かどうかは真であることも偽であることもありますが,その91日後(7×13日後)が7月1日なので曜日は一致します.だから,次の表のB欄は起りません.
■2 この問題も表全体について「つねに真である」かどうかという問いに対して,「つねに真である」と答えたことになります.(■1 個別のどれかの場合について答えていても,どの場合でも真です.) |
【問題7】次の各命題が正しい(真)ときはチェックを付け,正しくない(偽)のときはチェックなしとしてください.
(1) 1×2×3×...×99はとても大きな数になるので,156けたになるかどうか分からないものとして考えます.(■2 A,B,C,Dのどの場合なのか特定できないので表全体で考えます)1×2×3×...×99に100を掛けると2けただけ大きくなるので,次の表のB欄は起りません.
(2)の問題は,あなたのコンピュータのシステム時計が正しければ,(正しい日付)→(正しい曜日)となるようにプログラムで書いたものです. ■1 個別に(仮定)(結論)の真偽が定まる場合について考えると 真→真だから真になります. ■2 もし,日付変更線の向こう側の人と電話をしていて,その人に言わせると日付,曜日が違うことになり 偽→偽だから真です. (3)の問題は,あなたのコンピュータのシステム時計が正しければ,(間違った曜日)→(間違った日付)となるようにプログラムで書いたものです. 偽→偽だから真になります. (■2 この問題では明日の曜日と今日の日付の組になっているので,仮定が真で結論が偽となる組合せはないはずです.だから,真偽表でBの場合はなく「つねに真」も言えます.) ⇒ ここまで頑張って教材を作ってきましたが,どんなに頑張っても「p→qの真偽」について理解していただける人は,たぶん10%以下です.理解していただけない人90%以上は,その方の「正義感として」p→qの真偽を「qの真偽」から切り離すことができない方と「pが偽である」場合の「p→q」の真偽に納得しない方です. 数学は定義で成り立っているのに自分の正義感の方を優先されると,数学の土俵には乗れません. ≪具体例で示しましょう≫ 「x+1=6→x=5」は中学1年生でも分かる簡単な方程式の問題です.しかし,これはどんなxについてでも成り立つのです.すなわち(どんなxについても)「x+1=6→x=5」です. そんなことはことは当たり前だと思う方は,ほとんどの場合x=5の場合だけを考えています.だから 「5+1=6→5=5」…(A)だと考えて納得します.しかし,中学1年生に言えば混乱するので言えませんが,高校1年生には次のように言わなければならないのです. 「3+1=6→3=5」…(B)も成り立つ. (A)は真→真だから真,(B)は偽→偽だから真です. このように,1.「p→qの真偽」は「qの真偽」で決まるわけではなくpとqの関係で決まること,2.「pが偽である」場合を無視してならないこと,の2点を理解していただくと「p→qの真偽」ということが本当に理解していただけたことになります. この問題は,「qの真偽」に拘らずに「p→qの真偽」が決まる問題となっています. この頁の先頭【要点】の初めに書いてあるのは「p→qの真偽」についての”定義”なのです.だからもし結論に疑問がある場合には,定義に疑問を述べなければならないことになりますが,どんな偉い数学者がやってもこれと違う定義では,うまくいかない・・・「この定義しかない」のです. |
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